渋幕中学入試で出題!『堪え難きを堪え~』ってどういう意味?
皆さんは、「玉音放送」を知っていますか?
-もちろん知ってるよ!『堪え難きを堪え、忍び難きを忍び』で有名なやつでしょ!
正解です!さて、じゃあその、『堪え難きを堪え~』の文、どういう文脈で出てきたか、皆さんはわかりますか?
わからない人の方が多数でしょう。なんとなくのイメージで、国民がこの戦時下をよく耐えてくれたってことじゃないの?と思っている方が恐らく多いと思いますが、実はこれ文脈が全然違うんです。
まさにこの部分が、2023年度渋谷教育学園幕張中学校(以下、渋幕中)の1次入学試験で出題されました。
どんな問題が出題されたのか、そして『堪え難きを堪え~』はどういった意味なのか、一緒に見ていきましょう!
入試問題ではどう出題?
さて、渋幕中ではどう出題されたのでしょうか。以下が実際の入試問題になります。
1 朕カ帝国政府ハ堪ヘ難キヲ堪ヘ忍ヒ難キヲ忍ヒ東亜ノ解放ニ協力ス
(我が帝国政府は、堪え難くまた忍び難い思いを堪え、東アジアの解放に協力した)
2 忠良ナル爾臣民ハ堪ヘ難キヲ堪ヘ忍ヒ難キヲ忍ヒ今次ノ大戦ニ奮闘ス
(忠義を尽くした善良な国民は、堪え難くまた忍び難い思いを堪え、今回の大戦で奮闘した)
3 朕ハ時運ノ趨ク所堪ヘ難キヲ堪ヘ忍ヒ難キヲ忍ヒ以テ萬世ノ為ニ太平ヲ開カムト欲ス
(私は時の流れに従い、堪え難くまた忍び難い思いを堪え、今後永く平和な世の中を開こうと思う)
4 朕カ陸海将兵ハ堪ヘ難キヲ堪ヘ忍ヒ難キヲ忍ヒ勇戦スルモ戦局必スシモ好転セス
(我が陸海軍の兵たちは、堪え難くまた忍び難い思いを堪え、勇敢に戦ったが、戦局は必ずしも好転しなかった)
さて、皆さんはわかりますか?
一般的な認識では、2と答える人が多いのではないでしょうか。
残念、答えは3です。
-え?なんか思ってたのと違う。これって自分が堪えるってことなの??
そう感じた人が多いのではないでしょうか。
ですが、この違和感は、全文を見ればすぐに解決するでしょう。
玉音放送の全文を見る
違和感を感じる『堪え難きを堪え~』の文脈。ですがこれは全文を見ればすぐに解決することです。原文の後に、当塾で独自に現代語訳したものを掲載しております。
朕󠄁ハ帝󠄁國政府ヲシテ米英支蘇四國ニ對シ其ノ共同宣言ヲ受諾スル旨通󠄁吿セシメタリ
抑〻帝󠄁國臣民ノ康寧ヲ圖リ萬邦󠄁共榮ノ樂ヲ偕ニスルハ皇祖皇宗ノ遺󠄁範ニシテ朕󠄁ノ拳󠄁々措カサル所󠄁曩ニ米英二國ニ宣戰セル所󠄁以モ亦實ニ帝󠄁國ノ自存ト東亞ノ安定トヲ庻幾スルニ出テ他國ノ主權ヲ排シ領土ヲ侵󠄁スカ如キハ固ヨリ朕󠄁カ志ニアラス然ルニ交󠄁戰已ニ四歲ヲ閱シ朕󠄁カ陸海將兵ノ勇󠄁戰朕󠄁カ百僚有司ノ勵精朕󠄁カ一億衆庻ノ奉公󠄁各〻最善ヲ盡セルニ拘ラス戰局必スシモ好轉セス世界ノ大勢亦我ニ利アラス加之敵ハ新ニ殘虐󠄁ナル爆彈ヲ使󠄁用シテ頻ニ無辜ヲ殺傷シ慘害󠄂ノ及󠄁フ所󠄁眞ニ測ルヘカラサルニ至ル而モ尙交戰ヲ繼續セムカ終󠄁ニ我カ民族ノ滅亡ヲ招來スルノミナラス延󠄂テ人類ノ文󠄁明ヲモ破却スヘシ斯ノ如クムハ朕󠄁何ヲ以テカ億兆ノ赤子ヲ保シ皇祖皇宗ノ神靈ニ謝セムヤ
是レ朕󠄁カ帝󠄁國政府ヲシテ共同宣言ニ應セシムルニ至レル所󠄁以ナリ
朕󠄁ハ帝󠄁國ト共ニ終󠄁始東亞ノ解放ニ協力セル諸盟邦󠄁ニ對シ遺󠄁憾ノ意ヲ表セサルヲ得ス帝󠄁國臣民ニシテ戰陣ニ死シ職域ニ殉シ非命ニ斃レタル者及󠄁其ノ遺󠄁族ニ想ヲ致セハ五內爲ニ裂ク且戰傷ヲ負󠄁ヒ災禍ヲ蒙リ家業ヲ失ヒタル者ノ厚生ニ至リテハ朕󠄁ノ深ク軫念スル所󠄁ナリ惟フニ今後帝󠄁國ノ受󠄁クヘキ苦難ハ固ヨリ尋常ニアラス爾臣民ノ衷情󠄁モ朕󠄁善ク之ヲ知ル然レトモ朕󠄁ハ時運󠄁ノ趨ク所󠄁堪ヘ難キヲ堪ヘ忍󠄁ヒ難キヲ忍󠄁ヒ以テ萬世ノ爲ニ太平󠄁ヲ開カムト欲ス
朕󠄁ハ茲ニ國體ヲ護持シ得テ忠良ナル爾臣民ノ赤誠ニ信倚シ常ニ爾臣民ト共ニ在リ若シ夫レ情󠄁ノ激スル所󠄁濫ニ事端ヲ滋󠄁クシ或ハ同胞󠄁排擠互ニ時局ヲ亂リ爲ニ大道󠄁ヲ誤󠄁リ信義ヲ世界ニ失フカ如キハ朕󠄁最モ之ヲ戒ム宜シク擧國一家子孫相傳ヘ確ク神州ノ不滅ヲ信シ任重クシテ道󠄁遠󠄁キヲ念ヒ總力ヲ將來ノ建󠄁設ニ傾ケ道󠄁義ヲ篤クシ志操ヲ鞏クシ誓テ國體ノ精華ヲ發揚シ世界ノ進󠄁運󠄁ニ後レサラムコトヲ期スヘシ爾臣民其レ克ク朕󠄁カ意ヲ體セヨ
御名御璽
昭和二十年八月十四日
私は、世界の情勢と日本の現状とを深く考え、非常の措置によって今の局面を収拾しようと思い、忠義で善良な国民に伝える。私は大日本帝国政府に、アメリカ、イギリス、中国、ソ連の4か国に対して、共同宣言(ポツダム宣言)を受諾することを指示した。
そもそも、日本国民の平穏を確保し、世界の国々と共に栄えその喜びを共有することは、天皇家が代々大切にして来た教えで、私も常に念じてきたものである。以前に、アメリカ・イギリスの2国に宣戦布告した理由もまた、日本の自立と、東アジアの安定を心から願ってのものであり、他国の主権を侵害し、領土を奪うようなことは、元から私の意志とは異なる。
しかしながら、この戦争も既に4年が経過した。我が陸海将兵は勇敢に戦い、官僚・公務員たちは懸命に働き、1億の国民たちもみな尽力し、それぞれが最善を尽くしてくれたにも関わらず、選挙区は必ずしも好転はせず、世界の情勢もまた我々にとって不利である。
それだけでなく、敵国は新たに残虐な爆弾(原子爆弾)を使用して、多くの罪なき人々を殺傷し、その悲惨な被害がどこまで広がるか全く計り知れない。
それでもなお戦争を継続すれば、遂には我が民族の滅亡を招くだけでなく、ひいては人類の文明すらも破滅させるに違いない。
そのようなことになれば、私はどうやって、我が子ともいえる多くの国民を守り、歴代天皇の神霊に謝罪することができるであろうか。
これが、私が政府に、共同宣言を受諾させるに至った理由である。
私は、日本と共に終始東アジアの解放に協力をしてくれた同盟諸国に対し、遺憾の意を表さざるを得ない。日本国民であって戦場で死に、職場で殉職し、思いがけず命を落とした人々と、その遺族に思いを馳せると、身も心も引き裂かれる思いである。
さらに、戦争で傷を負い、戦禍を被り、職業や財産を失った人々の生活を考えると、私は深く心が痛むところである。
考えてみれば、これから我が国を待ち受けている苦難は、言うまでもなく並大抵のものでは無いだろう。あなた方国民の気持ちも私はよくわかっている。
しかし、私は運命に従い、堪え難きを堪え、また忍び難きを忍び、未来のために平和な世を切り拓いていきたい。
私は、ここにこうしてこの国の形を維持することが出来、忠義で善良なあなた方国民の真心を信じ、常にあなた方国民と共にある。
もし激しい感情にかられてむやみに争いごとを繰り返し、あるいは仲間同士で相手をけなしたり、陥れたりして互いに時局を混乱させ、そのために人としての道を誤り、世界から信頼を失うようなことは、私は最も強く戒めたい。
全国民が一致団結し、子孫のために受け継ぎ、わが神国日本は不滅であることを固く信じ、任務は重く道のりは遠いことを自覚し、全ての力を将来の建設のために注ぎ、人の道を大事にし、揺るぎない志を強く持って、必ず国の栄光を再び輝かせ、世界の進歩に遅れないようにする覚悟を決めよ。
国民たちよ、これらの私の意志を体現してくれ。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
現代語訳していて思ったことですが、『堪え難きを堪え~』の部分、結構後半なんですね。
なぜか前半な印象がありますが、考えてみれば玉音放送のビデオテープで当該部分が流れる時にはみんな泣いている印象もあります。
こうして現代語訳を見てみると、昭和天皇という人物を当時の人々がみなが敬愛し、マッカーサーが『エンペラーとは思えない』と言って驚いた昭和天皇の人物像がよくわかる気がします。
“私が頑張る”でも、”国民が頑張れ”でもなく、“私も頑張るからみんなも付いて来てくれ”というこの姿勢。学ぶべきものが多いですね。
ちなみにですが、入試問題としてのこの問題は、はっきり言って捨て問題でしょう。大人でも知っている人の方が少ないですし、ここに対策したところでどうしようもないです。みんな知らないのだから間違ってて当然。合ってたらラッキー。くらいで考えるのがちょうどいいと思います。
渋幕の先生は、この問題から玉音放送に興味を持ち、玉音放送の本当の意味に立ち返ってほしい、という思いでこの問題をつくったのではないでしょうか。
渋幕中学の社会は毎年、一定数こういった捨て問題が存在しますので、これらに踊らされないことも重要です。
今回は以上です!
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最後まで読んで下さりありがとうございました!
《出典》
玉音放送原文-『官報 號外』国立国会図書館デジタルコレクション. 印刷局 (1945年8月14日)
《参考文献》
玉音放送現代語訳
–Wikipedia『玉音放送』
–西日本新聞『終戦8・15の記憶 玉音放送の全文<現代語訳付き>』
–ハフポスト日本版『玉音放送の全文、現代語訳での意味は?』